未来 湊かなえ原作の映画『未来』。主演の黒島結菜や山﨑七海はもちろん、松坂桃李の役作りや北川景子の感情の爆発に圧倒される

未来 湊かなえ原作の映画『未来』。主演の黒島結菜や山﨑七海はもちろん、松坂桃李の役作りや北川景子の感情の爆発に圧倒される



未来 湊かなえ原作の映画『未来』。主演の黒島結菜や山﨑七海はもちろん、松坂桃李の役作りや北川景子の感情の爆発に圧倒される

未来

監督/瀬々敬久(ぜぜ たかひさ)
春に散る(23)、ラーゲリより愛を込めて(22)
護られなかった者たちへ(21)

出演/黒島結菜、山﨑七海、坂東龍汰、細田佳央太(ほそだ かなた)、
   近藤華、松坂桃李、北川景子、西野七瀬(声)

複雑な家庭環境で育ちながらも、祖母の期待に応えて教師になるという夢を叶えた真唯子。

彼女の教え子・章子のもとにある日、一通の手紙が届く。
差出人は――「20年後のわたし」。

半信半疑のまま返事を書くことで、父を亡くした悲しみや、心を閉ざした母との孤独な日々に耐えていた章子だが、母の新しい恋人からの暴力、壮絶ないじめ、そして信じがたい事実が彼女を容赦なく追い詰めていく。

誰もが過酷な運命に吞み込まれようとする中で、「未来のわたし」からの手紙が導くのは、希望か。
それとも、さらなる絶望か?

湊かなえさん原作の映画『未来』。

この作品は言葉という名の「細い糸」が繋ぎ止める物語ということ。
今作が監督の持てる手腕をすべて出し尽くした、凄まじい熱量の作品であるということです。物語は、非常に重苦しいトーンで進む。観ている間、何度も呼吸が浅くなるような、そんな「逃げ場のない現実」がスクリーンに映し出される。

ですが、この映画を単なる「悲劇」で終わらせていないものがあります。
それが「言葉」です。
主人公の少女・章子(あきこ)のもとに届いた、20年後の自分からの手紙。その「文章」という名の言葉たちが、彼女にとってのほんの少しの希望となり、彼女を最悪の状況の「ギリギリのライン」で踏みとどまらせている。

無機質な文字であるが、綴られることで文章になった「手紙」を書くことで暴発しそうな思いがとどまるシーンが何度もでてくる。湊かなえさんの原作が持つ筆致を、映像で見事に昇華させています。

少し身構えてしまうのが物語の構成かもしれません。
三つの時間軸を追いかけるミステリーの難しさ。
今作は、「過去」「現代」「その少し前の時間軸」という三つの時間軸が交互に織りなされる群像劇になっている。

ただ親切な設計として、時間軸が変わるたびに「◯◯◯年どこどこ」といった字幕がきちんと表示されるので、ミステリーが苦手な方でもストーリーを追いかけることは可能だと思う。
しかし、それでもなお、この作品は「追い切るのが難しい」部分があるのも事実。
それは技術的な難解さというより、それぞれの時代に込められた感情の密度が濃すぎるから。

「未来に希望を持つとは、どういうことなのか」。
そんな哲学的な問いが、三つの時間軸をまたいで私たちに突きつけられます。

主演の黒島結菜さん。彼女の持つ、凛としていて、かつ落ち着いた雰囲気はこの物語の「軸」の一つになっている。
彼女の演技があるからこそ、私たちはこの重い物語を最後まで見届けることができます。

ですが、今作で何より特筆すべきは、主人公・章子を演じた子役・山﨑七海を初めとした若手俳優たち。
なかでも近藤華、野澤しおりら2人の驚くべき頑張り。

特に山﨑七海が演じた章子の人生は、あまりにも勝手な大人たちの都合によって、本人が描いていたはずの願いや夢、歩むべき道が、音を立てて崩れ去っていきます。

劇中、彼女の「喜怒哀楽」のうち、「喜び」はあまり多く描かれない。

だからこそ、たまに見せる、本当に心から笑っているようなシーンや、穏やかな時間を過ごしているシーンが、観ているこちらの胸を締め付けます。「本来なら、この笑顔が当たり前にあるべきはずなのに」と。
翻弄される彼女たちの姿は、観ていて本当に心が苦しくなります。

そして、短い出演シーンでありながら、観終わった後も強烈に記憶に焼き付くのが、松坂桃李の存在です。

彼は物語の序盤で病によって亡くなってしまうのですが、物語の中盤以降、その亡くなる直前のエピソードが描かれるが、そこで目にする彼の姿は、入院中のシーンよりもさらに痩せ細り、死の淵に立たされていることが一目でわかる状態。

これはおそらく、メイクだけの力ではありません。
松坂桃李という俳優が、この役にどれほど真摯に向き合い、実際に体を絞り、精神を追い込んで「本当に冷え切ったオーラ」を纏ったからこそ出せる悲壮感。彼の俳優としての凄まじさを、改めて見せつけられました。

そして北川景子の無機質な演技と感情を全面に溢れる演技のギャップの凄さ
冒頭からラスト前まで、美しく、麗しいのに能面のような無表情な演技。
何をされても、何を言われても変化しない表情が、ラスト前にすべての感情のダムが決壊したかのような
娘への愛情あふれる思いの語りは本当に素晴らしかった

湊かなえさんの作品は、これまでも多く映画化されてきました。どれも重く、観る者に深い問いを投げかけますが、今作もその系譜を継ぐ一作です。

今の世の中、大人の勝手な都合や、間違った選択によって、子供たちが純粋に夢を見る権利を奪われるような事件があふれています。
この映画を観終わった後、私たちは考えずにはいられません。
「大人は子供に対して、何をしてあげられるべきなのか」
「そして、どんな背中や未来を示すべきなのか」

子供を大人の都合に巻き込むのではなく、「大人は楽しそうだ」「大人になるのが楽しみだ」と思ってもらえるような、そんな一つの希望になり得る社会を作らなければならない。そんなメッセージが、この重苦しい物語の底流には流れています。

「万人に観てほしい」とか「絶対に感動するから」といった、安易な言葉でおすすめできる作品ではないかもしれない
だが、出演している俳優陣の、魂を削るような演技を観る。それだけでも、劇場へ行く価値は十分にあります。

大人が子供から未来を奪わないために。そして、私たちがどう「未来」を語るべきかを見つめ直すために。
この映画『未来』を、ぜひあなたの目で確かめてみてください。