過疎化や高齢化など地域医療が抱える課題解決のため情報通信技術の活用が進められています。病院や企業などで取り組む新たなオンライン診療の在り方を取材しました。
水俣市にある国保水俣市立総合医療センター附属の久木野診療所です。
【診療】
「あまり変わりはないです」
スタッフは医師、看護師、受け付けをする職員の3人だけです。およそ50年間、地域の医療を支えてきました。
【78歳の男性】
「ここに来たらみんな(いろんな症状を)先生診てくださいますからね。安心なんですよね」
【診療】
「この間は元気にしてたでしょ」「はい、この頃です」「心臓がドキドキするの」
「ここが切なくなります」「痛みは?」「痛みはないですね」
体調がすぐれない高齢の女性が訪れてきました。
【診療】
「痛くなったり息苦しくなったら必ず医療センターの救急に連絡してください」
「いつもちゃんとしてるからね」「安心しました」
【86歳の女性】
「これがなくなれば大変ですね。自分で動けないから」
この地区の高齢化率は60%。住民の数も減り続け、今ではピーク時のおよそ3分の1です。およそ700人人口が減少するとともに診療日数も減り、現在は、週2日だけです。患者数は、1日平均7人
14キロ離れた医療センターから2人の医師が交互に訪れています。
医療センターでも医師の確保が難しい状況ですが、地区の人たちのために診療所を維持してきました。
【病院事業管理者 坂本 不出夫 医師】
「待っている患者さんがここにおられる。それが『我々はできませんよ』っていうわけにはいかないから、待っている人がいる限りは我々医療人としてどうにかして安心を与えてあげたい」
しかし、患者が減少する中でこのまま維持できるのか課題となっています。
このことにあわせて通院が1人では厳しいいわゆる”通院困難者”の負担軽減のため
新たな医療態勢の構築が求められていました。
【病院事業管理者 坂本 不出夫 医師】
「一人の医師を固定する。スタッフを固定する。どうしても経済的には成り立たない。それではベストではないがベターのやり方は何かと。今の時代はテクノロジーを利用して」
その解決策として医療センターが数年前から取り組んでいるのが情報通信技術を使った『オンライン診療』です。今年度は総務省の助成事業として水俣市と医療系ベンチャー企業『AMI』との3者で実証実験を行っています。
【オンライン診療】
「おはようございます」「どうですか?特に変わったことはないですか?」
久木野診療所の患者の診察のうち3回に1回はオンライン診療を取り入れていて、
医療センターから医師が診療所の患者を診ています。
実証実験では『AMI』が開発した技術を活用。
【オンライン診療】
「胸の音を聴いてみましょうか」「OKです。胸の音は正常ですね」
遠隔で聴診した心音や肺音などのデータを可視化することで、耳だけでなく目でも異常を見つけることが可能になりました。
心音・肺音・酸素飽和度・脈拍数
【オンライン診療を受けた男性】
「普段、直接お会いした診察と変わらない」
オンライン診療は外科の手術後の経過観察や慢性疾患の患者に対しても活用されています。
昨年度に行ったアンケートでは、オンライン診療を受けた患者の7割が「対面診療と変わらず受診できる」と回答したということです。
こうしたことを受け医療センターでは、オンライン診療を地域の介護施設に広げ行っています。
水俣市の山間部にある高齢者施設に入所している98歳の女性です。
普段は、近くのかかりつけ医の往診を受けていますが、この日はオンライン診療です。
2年前、医療センターで行った大腸の手術の経過観察のため担当した外科の医師が診察します。
【診療やりとり】
「調子はよさそうですね。手術の時から変わらないですね」診療にはかかりつけ医も立ち合い今後の診療についての医師同士で情報共有も
【国保水俣市立総合医療センター統括外科部長 長井 洋平 医師】
「あんなにニコニコ話さない。こっち来た時には、やはり検査で回って、待合で1、2時間待つこともあるからですね」
オンライン診療は患者や付き添う家族にとっても負担軽減にもつながります。
【国保水俣市立総合医療センター統括外科部長 長井 洋平 医師】
「僕らも外科の仕事をやりながら空いているに時間をうまく予定を入れて時間を有効利用できると思います」
『AMI』では心音や心電データから心臓の病気をAIを使って自動診断する機能を持ったさらに進化した聴診器の開発も進めています。
医療センターは、こういった技術と同意を得た患者の診療データを共有する『くまもとメディカルネットワーク』という熊本独自のシステムを利用し、より質の高い診療を目指しています。
【国保水俣市立総合医療センター統括外科部長 長井 洋平 医師】
「ICTを使っているのがまだ進んでいない領域、医療こそどんどん活用していってメリットは大きいと思います」多くの課題を抱える地域医療。関係者の連携、そしてデジタル技術を積極的に活用しようという姿勢から新たな形が見え始めています。