「薔薇の殺意~虚無への供物」1997年制作
日本の探偵小説における三大奇書のひとつとされる中井英夫(塔晶夫)の代表作「虚無への供物」のドラマ化。(第2話/全3話)
奈々村久生 深津絵里
氷沼蒼司 仲村トオル
氷沼藍司 遠藤雅
氷沼紅司 川本淳一
川西かつ枝 佐々木すみ江
藤木田 誠 北村和夫
牟礼田 俊夫 吹越満
八田晧吉 國村 隼
演出 平山秀幸
脚本 奥寺佐渡子
音楽 藤原マヒト
制作 NHK(共同制作・ケイファクトリー、NHKエンタープライズ21)
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原作のタイトル(ドラマでは副題)である「虚無への供物」は、氷沼家の先代当主・氷沼紫司郎が遺した薔薇の名前として登場します。
海に沈んで命を落とした父を偲んで、紅司がヴァレリーの詩(下記参照)から引用して名付けたことになっていますが、原作ではこの薔薇は「青い薔薇」として描かれていて、そのことにとても重要な意味があります。青薔薇は自然界には存在しないもので、俗に「不可能」を象徴するものとされています。その青薔薇を作り出すことに執念を燃やした紫司郎が、やがて氷沼家を没落させることになります。
それがこの事件の根底となるのですが、ドラマではなぜか最初から「赤い薔薇」として紹介されています。それでは緑司や黄司の存在もまったく意味不明なものになってしまうのです…。
「失われた美酒」ポール・ヴァレリー
一と日 われ海を旅して
(いづこの空の下なりけん、今は覚えず)
美酒少し海に流しぬ
虚無に捧ぐる供物にと
おお酒よ 誰か汝が消失を欲したる?
或はわれ易占に従ひたるか?
或はまた酒流しつつ血を思ふ
わが胸の秘密のためにせしなるか?
つかのまに薔薇いろの煙たちしが
たちまち常の如きとほり
清らかに海は残りぬ…
この酒を空しと云ふや?
…波は酔ひたり!
われは見き
潮風のうちにさかまく
いと深きものの姿を!