#JPN感動 #井上真央
柳楽優弥主演の日本テレビ系土曜ドラマ『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』で、久しぶりの連ドラ出演となる井上真央。これまでとは違う、新たな領域の演技を見せている。
『二月の勝者』は、中堅受験塾「桜花ゼミナール」を舞台に、柳楽演じる最強で最悪なスーパー塾講師・黒木蔵人が、家族や教育など現代社会のさまざまな問題に切り込みながら、中学受験に挑む子供たちを成功に導く人生攻略ドラマ。井上演じる佐倉麻衣は、中学教員の経験がある算数担当の新任講師で、塾は営利目的の企業だと割り切る冷徹な黒木の方針に何かと反発していく役柄だ。
子役としてキャリアをスタートさせた井上は、『キッズ・ウォー』シリーズ(TBS系)の茜役や、連続ドラマ初主演を果たした『花より男子』シリーズ(TBS系)の牧野つくしなど、当初は正義感溢れる、庶民的な女の子役が似合う女優として活躍してきた。20代に入ってからは、NHK朝の連続テレビ小説『おひさま』のヒロインなど、これまでのイメージ通りに感情をストレートに表現していく役を演じる一方、映画『八日目の蝉』では、赤ん坊の時に父親の愛人に誘拐され育てられた恵理菜役を熱演。複雑な過去を背負い人生を模索する難役を、これまでの感情をわかりやすく表現する演技とは対照的な、憤りや傷を抱えながら生きる苦しさを伝える静かな演技という新境地を見せた。
新たな顔を見せるきっかけとなった『八日目の蝉』で、井上は数多くの女優賞を受賞。以降もNHK大河ドラマ『花燃ゆ』で大河ドラマ初出演にして主演、紅白の紅組司会も務めるなど本作が、井上にとって国民的女優となる契機になったと言える。
今回の『二月の勝者』は、主人公に振り回され、生き方・教育を考え直すようになる役というのが意外な印象。固定概念を覆す新たなチャレンジなのか、それとも10代~20代の頃を彷彿とさせる原点回帰なのかと思っていたが、初回放送を観ると、井上だからこそ演じられる役柄だと気づかされる。
柳楽優弥と発揮する相性の良さ
破天荒な黒木と常識人の佐倉との対比の構造で進むドラマではあるが、単純にぶつかり合うのではなく、黒木は嫌味たらしくはありつつも、中学教師をドロップアウトして塾講師となった佐倉の悩みを一刀両断していく構図となっている。原作の佐倉は新卒講師だったが、ドラマでは訳ありの元教師という設定に変えたことで、元々リアリティのある原作がより現実味を帯び、塾講師と中学教師の違いや共通点が見え、物語に幅が広がっている。
井上の演技もわかりやすくコメディ風に単に反発するのではなく、相手と目線を合わさずに、意見やリアクションを一旦飲み込むように受け止める演技で、教師を挫折した人の冷めた感じを、飾らず表現している。これまで類い稀なるキャリアを重ねてきた井上だからこその熟練の演技と言える。どこか小林聡美を彷彿とさせる自然体な女優として、30代~40代は活躍していくのではないだろうか。原作に忠実な柳楽の演技に受身が取れ、絶妙なバランスと思わせるのは井上をおいては他におらず、見事なキャスティングとなった。
井上の新しいイメージと、変わらぬ求心力を再確認できる今作。今後は黒木の過去なども分かり、黒木にはない佐倉の優しさが物語に必要となってくるかもしれない。子どものためにお互いを認めていく過程を演技派の2人がどう見せるのか、楽しみだ。
