GP-Final 2018 FS/カナダ・バンクーバー2018-12-08
FSの最終滑走者として落ち着いてリンクに登場したかに見えた紀平梨花選手だったが、演技最初の3A+3T予定の大技コンビネーションジャンプで失敗が起きた。
1連目のジャンプであるトリプルアクセルが回転不足で体の軸が前寄りでの着氷となって前のめりに両手を氷上に付いてしまい、2連目のトリプルトゥループを跳ぶことができなかった。
しかし、その後の予定では単独だったトリプルアクセルを3A+2Tへ修正して冒頭のジャンプで生じた大きな減点を幾分か回復してみせた。最初のジャンプミスでGOEを含めて-12点ぐらい落とし、その後の2つ目の修正ジャンプでGOEを含めて+3点ぐらい回復させ、都合-9点ぐらいになった格好だ。(※【追記訂正】4つ目のジャンプエレメンツは当初申請が3Lz+2Tだったが、このコンビネーションの2連目を3Tへ変更してもいるので、それでGOEを含め+3点追加、「都合-6点ぐらいになった格好だ。」と訂正します。)
その後は全くミスを見せず、予定していた要素を完璧にこなし演技終了した。
紀平より2つ手前で演技し2つ目のコンビネーションジャンプ3Lz+3T予定が2連目ジャンプがシングルとなってGOEを含め6点ぐらい点を削りながらもその後立て直して暫定1位となっていたアリーナ・ザギトワ選手は、紀平の演技を見て自身の優勝を確信した表情を見せた。
結果は、紀平のFSが150.61点(技術点78.21演技構成点72.40)で、ザギトワのFSは148.60点(技術点75.90演技構成点72.70)。
SPと合わせたTotalは、紀平が233.12点、ザギトワが226.53点。
実力が伯仲する同じ16歳のGPファイナルは紀平選手に軍配が上がった。
シニアデビューの年にGPFで優勝を果たしたのは、日本人では2005年の浅田真央選手以来13年ぶりである。
ここで面白い事実を紹介したい。
ISU公式の採点表を観ると、FSの技術点は1位の紀平が78.21点で2位のザギトワの75.90点を辛うじて上回っているが、演技審判の主観的採点である演技構成点に目を向けると紀平が72.40点でザギトワが72.70点と二人は拮抗しているのだが、面白いのは、審判員の出身国別的に得点の出方に特徴があることだ。
演技審判は9名おり、J1がUSA、J2がCHN、J3がGEO、J4がJPN、J5がCAN、J&がKOR、J7がESP、J8がRUS、J9がFINだ。
紀平の演技構成点に対しては、GEO(ジョージア人)とRUS(ロシア人)とFIN(フィンランド人)の西洋3審判が辛口の点数を出している。
一方、ザギトワの演技構成点に対しては、CHN(中国人)とKOR(韓国人)の東洋2審判が辛口の採点をしている。
SPの演技構成点でも同様の傾向を示している。
これは、西洋的審美眼と東洋的審美眼の違いを端的に示しているのであるが、演技審判9名のうち、西洋人審判が6名、東洋人審判が3名である。
演技審判の大半はフィギュアスケートの経験の無い女性である。
西洋的審美眼が芸術性や表現力に目を向けるのに対し、東洋的審美眼はその根底を支えている技術力をも見ている言っていいだろうか・・。
いずれにせよ、技術的側面を集中してみている技術審判(フィギュアスケートの経験者)は客観的評価を下すが、演技審判に至っては各個人の主観的評価が反映されるという事だ。演技審判は、全体得点の約半分を占める演技構成点だけでなく、技術点のGOE(出来栄え点)にも関与してくるので、演技全体が客観的観点で採点される割合よりも主観的観点で採点される割合が圧倒的に大きいのだ。はたしてこれは、スポーツか?という疑念は今に始まった事ではないが、同じスポーツでも体操が審判の裁定に不服を告げられるだけでなく将来はあやふやな人間の主観的評価ではなくAIによる客観的評価を導入するという動きは、フィギュアをまっとうなスポーツとして成立させるためにも慧眼すべき動きとして注目してみたい。
紀平選手、優勝おめでとう!