青森の地震はマグニチュードが「ちょっと足りない」 震源の南東側に”滑り残り”がある可能性 専門家「気象庁とは別の意味で注意が必要」
8日午後11時15分ごろ、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5の地震があり、青森県八戸市で震度6強を観測しました。北海道や東北地方の太平洋側には津波警報や津波注意報が出され、岩手・久慈港では午前1時ごろに70cmの津波を観測するなど、各地で津波が観測されました。消防庁などによると、今回の地震で少なくとも35人がけがをしました。
今回の地震で初めて発表された「後発地震注意情報」とは。どう備えればいいのか。京都大学防災研究所の伊藤喜宏教授に聞きました。
■今回の地震のマグニチュードは「ちょっと足りない」
今回の地震はどのように起こったのでしょうか。
日本は多数のプレートに囲まれている国です。今回の地震が起こったのは、北米プレートと太平洋プレートの境界付近で、海溝型地震とみられています。北米プレートに向かって太平洋プレートが沈み込んでいき、ひずみがたまって最終的に北米プレートが跳ね返る。このときの揺れで地震が起きます。
(Q.この地域は海溝型地震が多いところ?)
伊藤先生:
マグニチュード7〜8クラスの地震が比較的頻繁に起きている地域です。東日本大震災も今回と同じメカニズムの地震と考えていただいて結構です。
(Q.プレートが年間7~8センチ沈み込んでいくが、それが蓄積されるとどうなる?)
伊藤先生:
年間7cmの沈み込みと仮定すると、1968年の十勝沖地震から57年経過していることから、約4mの沈み込んでいる計算になります。プレートが3〜4m沈み込むと大きな地震が起きやすいです。
(Q.今回は57年分のひずみが解放された可能性がある?)
伊藤先生:
その通りです。今回の地震は1968年の十勝沖地震の震源域とほぼ同じ所で発生しています。マグニチュード7.5ですから大体4~5mくらいの”積もり”だとすれば、妥当なサイズの地震が発生しているということになります。
ただし重要なのは、前回の地震がマグニチュード7.9で、今回の地震はマグニチュード7.5なので「ちょっと足りない」んです。何が足りないかっていうと、今回の地震は、おそらく震源の西側を主に破壊したと考えています。つまり東側、南東側が残っている可能性があります。今回観測したマグニチュードを考えると、同規模の地震が近い将来発生すると考えて避難行動した方が良いかもしれない。
■初めて発表された「後発地震注意情報」とは?
今回の地震では「北海道・三陸沖 後発地震注意情報」が発表されました。日本海溝・千島海溝付近で、岩盤のずれの規模を示す「モーメントマグニチュード」が7.0以上の地震が発生した場合、その影響で新たな大規模地震が発生する可能性への警戒を呼びかけるもので、2022年の運用開始後、初の発表でした。
防災対応をとるべきエリアはかなり広範囲で、7つの道と県の182市町村に及びます。今後1週間の大規模地震発生確率は平常時が約0.1%なのに対し、注意情報発表時は約1%と10倍になっています。
(Q.後発地震が発生する確率は上がっている?)
伊藤先生:
これまでの世界各地の沈み込み帯などを見て、過去の事例と照らし合わせた場合に、確率が大きくなっているということです。1週間から1カ月程度は地震に注意した方がいいと思います。
今回の震源の南東側に滑り残りがある可能性があり、それを考えると一般論として「確率が10倍大きくなっている」とは少し状況が違うんじゃないかと私は考えています。それも含めて、国が示す1週間は注意していただき、その後も安心するのではなくて、今回はもう少し長い目で見た方がいいんじゃないかということです。
(Q.日本海溝・千島海溝付近というのは大規模地震が多いと考えると、常にこういうことが起こりうると警戒しておいた方がいいんですか?)
伊藤先生:
基本的に、この地域はマグニチュード7クラスの地震が頻繁に発生する地域だと思っていただいて結構です。ただ、改めて強調したいのは、1968年の十勝沖地震と同様の地域を、同じマグニチュードで破壊していないということです。今回の気象庁が出してるような「一般的に確率が上がっています」というものとは別の意味で注意が必要だというところです。
(Q.今回の注意情報では事前避難は求められていないんですよね?)
伊藤先生:
そうですね。先が1週間なのか1カ月なのか分からないなかで、長期的に避難してくださいっていうのも難しいとは思います。同規模もしくはそれ以上の地震が発生する確率が高まっていることを十分に理解し、いざ起きたときに速やかな避難行動に移すことを心がけることが、まずはいいんではないかと思います。
(Q.今後、新たな地震が発生した場合、東日本大震災と同等の津波は発生する?)
伊藤先生:
そのケースは否定しません。少なくとも今回の”滑り残し”で、同規模のものが今回の震源より東側で発生した場合、今回の津波より大きくなる可能性はありますが、東日本大震災と同等になる可能性は、そこまで考えるほどじゃないかなと思います。
■過去には同地域で後発地震が発生したケースも
この地域で過去にも後発地震が起こったケースがあります。1つ目が1963年択捉島南東沖地震で、Mw(モーメントマグニチュード)7.0の地震が発生してからわずか18時間後にMw8.5の地震が発生しました。2011年の東日本大震災のときも、巨大地震の2日前に、Mw7.3の地震が発生していました。
(Q.今回の地震の後に、後発の大きな地震が起きる可能性も否定はできない?)
伊藤先生:
より大きな規模の地震が発生する可能性は否定しませんが、まずは同規模の地震発生の方が、今後考えられるシナリオとして大きいんじゃないかと思います。
■後発地震注意情報が出たらどう備える?
後発地震注意情報について、内閣府は次のような備えを勧めています。
・すぐに逃げられる態勢の維持。寝ていてもすぐに逃げられるように枕元に必要なものを準備しておく。
・非常持ち出し品の常時携帯。例えば現金や身分証など、普段は買い物に行くときに持ち歩かないものでも、出先から直接避難することも考えられるため携帯する。
・避難場所や避難経路の再確認。パニックになってどこに避難すればいいか分からなくなることもある。
・非常食などの備蓄の再確認。
(Q.普段からの準備が大切になる?)
伊藤先生:
その通りです。後発地震注意情報がでている中で、いざ地震が起きてもすぐに逃げられる態勢、そして地震が起きたときに強い揺れや津波に備えられる態勢を常に心がけて、まずは1週間過ごしていただくのがいいかと思います。
・伊藤喜宏さん
京都大学防災研究所 教授
沈み込み帯などで発生する巨大地震を研究
(『newsおかえり』12月9日放送分より)
