【極道の妻たち】岩下志麻・かたせ梨乃の女の争い 「あほんだら、撃てるもんなら、撃ってみぃ」極道の女が火花を散らす名シーン
岩下志麻が語る『極道の妻たち』の舞台裏
撮影所に到着すると、スタッフが車のドアを開け、足元には草履が揃えられていました。控え室にはタバコとライターが用意され、「まず一服どうぞ」と火をつけてもらう――そんな日々を過ごすうちに、まるで本物の極道の世界にいるような感覚になっていったそうです。「撮影中は毎日、姐さん気分。極道の世界にハマってしまいました」と岩下さんは振り返ります。
役への没入は、日常生活にも影響を及ぼしました。ホテルでセリフの練習をしている最中、友人から電話がかかってきたときのこと。受話器を取った岩下さんは、思わず第一声で「わてや」と口にしてしまったそうです。普段は決して使わない言葉だったため、自分でも驚いたのだとか。
『極道の妻たち』といえば、姐御の象徴ともいえる背中の刺青が印象的です。当時の撮影所には「刺青部屋」があり、専属の刺青師が毎朝5時から3時間かけて筆を走らせました。もちろん本物ではなく撮影後に落とせるものでしたが、刷毛で絵の具を伸ばすときのチクチクした刺激や、仕上げに塗るベンジンの匂いが少し苦しかったそうです。それでも、完成した刺青を見た瞬間、一気に”姐さん”のスイッチが入ったといいます。
監督 五社英雄
脚本 高田宏治
原作 家田荘子「極道の妻たち」(文藝春秋刊)
出演者 岩下志麻 かたせ梨乃 世良公則 成田三樹夫 藤間紫
音楽 佐藤勝
撮影 森田富士郎
編集 市田勇
配給 東映
公開 日本の旗 1986年11月15日
上映時間 120分
衣装や立ち居振る舞いにも、細部までこだわりました。五社英雄監督と相談しながら衣装を決めましたが、着こなしは岩下さん自身が工夫。ピアスやネックレスは控えめにしつつ、胸元のほくろを目安に襟を開くことで計算された色気を演出しました。着物姿の歩き方も、通常の内股ではなく外股にし、顎を上げて人を見下ろすような視線を意識。さらに、声のトーンを低くして、貫禄を出すように心がけたそうです。「一作目ではまだ声がそこまで低くなかったのですが、『新極道の妻たち 覚悟しいや』の頃には、かなり低くなっていましたね」と語ります。
また、岩下さんはもともとタバコを吸わない人でしたが、役作りのために喫煙を始めました。周囲が禁煙を始める頃、逆にタバコを吸い始め、撮影中はチェーンスモーカーに。しかし、『極道の妻たち』シリーズが終わってから5年ほどでスパッとやめたそうです。「役に入り込むためとはいえ、タバコまで習慣になるとは思いませんでした。でも、役が終わったら自然とやめられましたね」と振り返ります。
こうして岩下志麻さんが作り上げた”姐さん”は、単なるヤクザ映画のヒロインではなく、一つの伝説となりました。「この作品は私にとって大きな挑戦でしたが、それ以上に得るものが多かったですね。極道の世界に生きる女性たちの強さや美しさを、少しでも表現できたなら本望です」と語る彼女の言葉から、”姐さん”という役への深い思いが伝わってきます。
