最近、奄美大島で、アメリカ軍の軍用機の目撃情報があとを絶ちません。事前に何の知らせもなく、軍用機が突然、飛来する状況が続き、市民の間では不安が広がっています。奄美の空で今、何が起きているのでしょうか。
(取材・奄美支局 高橋太一記者)
【奄美で急増アメリカ軍機の飛来】
山の上を連なって飛ぶ輸送機や、集落上空を縦横無尽に飛び交うオスプレイ。
奄美大島の上空では、最近、アメリカ軍の軍用機の目撃情報が相次いでいます。
住民からは、「最近頻繁になっている。地響きのようなすごい音がするのでびっくりする」という声や「墜落するのではないかとひやひやした」などといった声が聞かれ、不安が募っています。
奄美市役所には、住民から寄せられた目撃情報が記録されています。
通報件数は年々増加し、今年度に入ってからはすでに27件。
3か月足らずで昨年度1年間の23件をすでに超えました。
【市街地上空での“低空飛行”が増加】
奄美市で市民グループの代表を務める、城村典文さんは、島内各地に住む知人たちとともに軍用機の目撃情報を収集し県を通して防衛省の出先機関に報告しています。
機体の識別番号などから、奄美上空を飛ぶ機体は、多くが沖縄のアメリカ軍基地に所属するものだと分かっています。
4年間、奄美でアメリカ軍の機体を見続けてきた城村さんは、最近、飛来の増加とともに、ある変化が起きていると感じています。
アメリカ軍機が市街地上空を低空で飛ぶようになったと言うのです。
城村さんは、「学校の上、病院の上、幼稚園の上を低空で飛んでいる。墜落したら大惨事だ」と話していました。
【アメリカ軍の飛行ルートはあるのか】
奄美大島の市街地上空にアメリカ軍の飛行ルートができているのではないか。
そう思った私たちはまず、目撃情報が最も多い海兵隊の輸送機・オスプレイについて、アメリカ軍が公表している資料を確認しました。
アメリカ海兵隊が、2012年に公表した資料にはオスプレイは全国各地に設定されたルートで訓練を行うことが明記されていて、奄美大島にもそのルートの1つがあります。
地図上では島の西の端をかすめる形で線が引かれているものの、市街地や東側を通過するようには設定されていないように見えます。
実態を知ろうと、奄美上空の飛行について、オスプレイを運用するアメリカ海兵隊に問い合わせましたが、回答は「決められたコース内を飛行している」というものでした。
しかし、市街地の住民に話を聞くと、海兵隊の回答とは異なる状況が浮かび上がります。
市街地上空を低空で飛行していくのは日常茶飯事だと証言する住民が多く現れたのです。
奄美市の市街地にあるガソリンスタンドの従業員は、「多いときは週に3回くらいオスプレイが飛んでいるのを見る。飛行機の形が分かるくらい低く飛んでいる。小学校や中学校の上空を飛んでいるので危ないと思う」と話していました。
【国・自治体の対応は】
アメリカ軍機の飛行が市街地や、集落上空で増えていますが、地元の自治体単独で具体的に対応するのは難しいのが実情です。
先月、城村さんたちは奄美市に対して、「アメリカ軍機が市街地上空を飛ばないよう市が求めてほしい」とする要請書を提出しましたが、市は「引き続き関係機関と連携して対処したい」と返答しました。
アメリカ軍と直接やりとりする立場にある防衛省はNHKの取材に対し、個々の訓練の場所や内容などの詳細については、「承知していない」とした上で、「引き続き、アメリカ側に対し、安全面に最大限配慮するとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう求めていきたい」としています。
軍用機を運用する当事者、在日アメリカ軍の司令部に直接見解を尋ねましたが、得られた回答は「安全保障上の理由から運用にかかわる詳細については答えられない」、「すべての航空機の運用は日米間の合意や規定に従って行われている」というもの。
実態を明らかにすることはできませんでした。
【専門家「地位協定の趣旨にも反する」】
この問題について、長年、日米の安全保障と向き合ってきた軍事評論家の前田哲男さんは、「日米地位協定第5条は基地間を移動する権利を認めている。本来それは基地に出入りする権利に限定されていたが、アメリカ軍は移動の途中で低空訓練を行ってもいいという拡大解釈をしてきた。これは日米地位協定、安全保障条約の精神から明らかに逸脱しているが、日本政府はそれを認めている。こうした状況を変えていくことが必要だ」と指摘しています。
アメリカ軍基地とは関係が薄いと思われてきた奄美大島。
明確な説明や対応がないまま、軍用機が住民の生活の真上を飛び続ける状態が続いています。
【解説】
(在日米軍「増加していない」)
そもそも、なぜ奄美大島上空へのアメリカ軍機の飛来が増えているのか。
アメリカ海兵隊に理由を尋ねましたが、アメリカ海兵隊は「奄美大島上空での飛行は増えていない」と回答しました。
しかし、これは奄美市の通報記録や、住民が感じている実態とは異なるもので、謎は深まるばかりです。
軍事評論家の前田哲男さんは、増加の理由ははっきりしないとした上で、アメリカ軍の軍用機が市街地を飛行する目的について「オスプレイなどは敵のレーダーに映らないよう、山あいの地形に沿って飛行し、その後、市街地を目標に見立て、急降下する訓練を行っている可能性がある」と指摘しています。
(日本全国で問題に)
アメリカ軍機の飛行は、アメリカ軍基地が集中する沖縄に限らず、全国的に問題になっています。
全国知事会は2年前、防衛省に対して、訓練の時期やルートを事前に知らせることなどを求める提言を行いました。
しかし、最近では、四国や北海道などでも低空で飛行しているという目撃情報が相次いでいるほか、奄美などの現状を考えると、実現にはほど遠い状況です。
(米軍機は航空法の適用を免除)
事態の改善には、大きな壁が存在します。
アメリカ軍の軍用機は、日米地位協定に伴う特例法で日本の航空法の適用を広く免除されているからです。
航空法が定める「最低安全高度」は人口密集地では周辺600メートルの最も高い障害物から300メートル、それ以外の地域では150メートルですが、アメリカ軍にはこの法律は適用されません。
日米の外務・防衛の当局者による日米合同委員会は、それを補う形で「アメリカ軍は低空飛行訓練を実施する際、日本の航空法の基準を用いる」と合意していますが、違反したとしても法的な責任を問うことができない仕組みになっています。
(求められる説明責任)
何が起きているのか知ることができず、不安を抱える島の人たちが多くいる中、アメリカ軍は、私たちの取材に対し、「日本の防衛のために万全の飛行能力を維持する必要がある一方、地域住民への影響を最小限にするため、あらゆる努力をする」と回答しています。
「あらゆる努力をする」と言うのであれば、奄美上空で何が行われているのか、アメリカ軍には最低限の説明を行う責任があり、日本政府も、それを促し、さらに、住民の意見を反映させていくための具体的な対応をとっていく必要があると感じています。
